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高等部第70回卒業証書授与式 部長式辞

マタイによる福音書5章14~16節

あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。また、灯をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家にあるすべてのものを照らすのである。そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かせなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、天におられるあなたがたの父を崇めるようになるためである。

うららかな春の日差しが、まるで卒業生一人ひとりを暖かく包んでくれているかのように感じられる今日この日、ご家族の皆様を中継で結び、ここに青山学院高等部第70回卒業証書授与式を挙行できますことを、心より感謝申し上げます。
70期卒業生の皆さん、皆さんの成長を喜ぶとともに、この輝かしい門出を祝福いたします。おめでとう。
またご父母やご家族の皆様におかれましては、18年という長きにわたり、陰に日向に共によろこぶこともあれば、時にはお心を痛めつつ、ここまで育ててこられ、思いもひとしおのものがあるとお察しいたします。本日は誠におめでとうございます。
さて、皆さんは、2019年4月に、この青山学院高等部に入学してきました。あれからもう3年が経ちました。改めて振り返ってみると、皆さんの高等部での3年間はどのようなものでしたでしょうか。昨日の送別会でも触れましたが、この2年は大きな試練を経験することになりました。当たり前のことが当たり前でなくなり、思い通りにならないことをたくさん経験し、そして一つひとつ乗り越えてきました。しかしそのような中にあっても、その背後には、応援してくれる家族や教員があり、共に励まし合う友があったということをどうぞ覚えておいてください。皆さんのこの3年間の一つ一つの経験が、成長の糧、人格形成の糧となっていると私は信じます。高等部での学びや経験を胸に、新しい歩みを進めてほしいと思います。感染症や戦争、心配や憂いはいましばらく続くかもしれませんが、どうぞより良い社会を作る人になってください。また自分の周りに、そして世界に平和を作る人になってください。そしてまた皆さん自身が幸せな人生を歩んでほしいと願っています。
先ほど山本院長にお読みいただいた聖書の箇所は、皆さんご存知、青山学院のスクールモットーである、「地の塩、世の光」の「世の光」の箇所です。このスクールモットーは、皆さん一人ひとりが世の光として暗闇の中を照らし、困難の中でも希望の光となってほしいという願いが込められています。
ピーター・ドラッカーという人を聞いたことがあるでしょうか。経営学の父とも呼ばれ、アメリカや日本をはじめとする多くの国の企業家がその教えを参考にしている方です。これから経営学やマーケティングを学ぶ人は素通りできない人で、私も学生時代に学び、会社員としてマーケティングに関わっていた時も、実際に彼の考え方を参考にさせてもらうことがしばしばありました。顧客の創造、適材適所、使命感の共有、「正しいこと」を行う勇気。今改めて読んでも、企業だけに限らない様々な場所で適用できるエッセンスがあるように思えます。
そんなドラッカー氏が書いた「マネジメント」という著書の中に、有名な3人の石切工の話が出てきます。彼らは、作業中に、何をしているかを聞かれて、一人目は「私は石切をして生計を立てている」と答えました。二人目は、質問した相手の顔も見ずに、即座に「自分は最高の石切の仕事をしている」と答えました。そして三人目は、夢を語るような顔で「私は教会を建てている」と答えました。第一の男は、仕事で何を得ようとしているかを知っており、事実それを得ている。一日の報酬に対して一日の仕事をする人。第二の男は、自分の熟練した技能を誇りに思い、働いている人。一見、職人かたぎで良い仕事をしてくれる人に聞こえます。しかし彼はここで、最高の技術は最高のものを作る時に不可欠だが、組織を運営していく上では、自分の目標が組織全体の目標より優先するようになってしまってはマネージャーとしてふさわしくない、と言います。そして第三の男が、マネージャー、つまり責任者や経営者だ、と彼は言います。確かにこの人にはビジョンがあり、全体が俯瞰できているように見えます。なるほど、と何をするにも目的を意識すること、ビジョンを持つことの大切さを感じさせる話でした。
3年前アメリカにある複数の大学の視察に行った際、少し足を延ばしてカリフォルニアにあるドラッカーインスティテュートという、ドラッカー氏に関する研究所を訪れることができました。そこで、彼が熱心なクリスチャンで、彼の教えや考え方の背景には、彼のキリスト教信仰があることを知りました。つまりドラッカー本人は、自分の信仰を企業や組織の運営の中に取り込んで考えていた、ということのようなのです。また晩年彼は、営利を求める企業ではなく、非営利団体のマネジメントの研究に心血を注いでいてことも知りました。見方が変わりました。彼は、経営学の父と言われるほどでしたが、企業の経済的な繁栄や成功よりもむしろ、その経済活動や良い企業がもたらす、より良い社会の形成、ひいては人々の幸せな暮らしをもイメージした考えや理論を展開していたのだと感じました。
先ほどの話で「教会を建てている」と答えた人、という例はきっと、立派な教会を建てるという外見的なイメージだけでなく、教会で生活する人を思って、そこで過ごす人たちの幸せを願って、ふさわしい教会を建てている、ということまでイメージしていくことが大切だ、言いたかったのだろう、と私は結論付けています。誰かのために行動する、人の幸せのために働く、というビジョン。そしてこれが、世の光として歩むことにつながるのだと思います。
様々なことが複雑に絡み合い、正解を見つけることが難しい時代に私たちは生きています。すべきことに悩んだときは、その仕事や働きを、何のためにやっているのか、誰かのためになっているのか、人の幸せにつながっているのか、さらに言うならそこに愛はあるのか、という問いを持って決めてほしいと願います。そしてそれが結果的により良い仕事、より良い成果、より良い社会づくりに貢献できるのだと信じます。
そしてどうぞ私たちを造り、愛し、私たちと共にいてくださっている神様は、これからの人生も皆さんと共にいてくださり、そんなみなさんの光を輝かせてくださる、ということを覚えていてほしいと願います。
最後に、アイリッシュ・ブレッシングという祈りを捧げます。
May the road ever rise to meet you.
May the wind be at your back.
May the sun shine warmly on your face.
May the rain fall softly on your fields.
And until we meet again,
May God hold you firmly in the palm of his hand and give you Peace.
あなたの前に歩むべき道が常に開かれるように。
風があなたの背中をやさしく押すように。
太陽があなたの顔を暖かく照らすように。
雨があなたの田畑をしとしとと潤すように。
そしてまた会う日まで、
願わくは、慈しみの神が、あなたをしっかりとその御手のうちに置き給い
あなたに平安を賜るように。
God bless you all.
皆さんのこれからの人生の上に、神様の祝福が豊かにあるようお祈りし、式辞といたします。
本日はご卒業、おめでとうございます。

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