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高等部第72回卒業証書授与式 部長式辞

コリントの信徒への手紙二 4章 16~18節

だから、私たちは落胆しません。私たちの外なる人が朽ちるとしても、私たちのうちなる人は日々新たにされていきます。このしばらくの軽い苦難は、私たちの内に働いて、比べものにならないほど重みのある永遠の栄光をもたらしてくれます。私たちは、見えるものではなく、見えないものに目を注ぎます。見えるものは一時的であり、見えないものは永遠に存続するからです。

ようやく春の訪れを感じるうららかな日差しが心地よい今日この良き日、ご来賓、そしてご家族の皆様をお招きし、ここに青山学院高等部第72回卒業証書授与式を挙行できますことを、心より感謝申し上げます。

72期卒業生の皆さん、皆さんの頼もしい成長を喜ぶとともに、この輝かしい門出を祝福いたします。おめでとう。またご父母やご家族の皆様におかれましては、18年という長きにわたり、陰に日向に共によろこぶこともあれば、時にはお心を痛めつつここまで育ててこられ、思いもひとしおのものがあるとお察しいたします。本日は誠におめでとうございます。

さて、卒業生の皆さんは、2021年4月に、この青山学院高等部に入学してきました。当時は、コロナ禍2年目。まだまだ様々な制限の中での高等部生活のスタートでした。あれから3年が経とうしています。新しい出会いがあり、多くの学びがあり、喜び、試練、友との思い出と共に、皆さんは成長してきました。これまで皆さんが乗り越えてきた苦労や試練もまた、今の皆さんを形成し、これからの人生を歩むための強さを与えてくれていることと信じています。

ところで皆さんが生きていくこれからの時代は、これまで以上に情報があふれかえり、何が大切か、どちらを向いて行けばよいのか、簡単に見失ってしまうあやうさがある時代だと思います。また、感染症が終わっても戦争や災害、世界の分断や、格差社会の拡大など、生きていく上で不安や焦りを感じる状況も続くかもしれません。

そのような時代の中、皆さんには、「人生の豊かさとは何か」「幸せとは何か」という視点をいつも忘れずに生きていってほしいと願います。どうでしょうか。今皆さんの中には、幸せの条件として何かイメージしていることはあるでしょうか。

今頭の中で、経済的豊かさをイメージした人は少なからずいるでしょうか。有名な会社に入り、あるいは起業して、給料をたくさんもらう、悪くないことです。毎年1月に長野で行われるホワイトキャンプでは、例年最終日の夜に星空を眺めに行くのですが、満天の星を見上げていると、時折星が流れます。すると誰かが「流れ星に3回願いを唱えるとかなう」と言い出します。そして次の流れ星の時に聞こえてくるのが、「金・金・金」。そして一同爆笑、ということが起こります。これは、冗談として笑っている人もいれば、まんざら冗談でもなく、言葉にしないまでも心の中で思った人が少なからずいてもおかしくないと思っています。経済的な豊かさがなければこの時代やっていけない、そう思っても仕方がない世の中だと思っているからです。

メリトクラシーという言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本語では、能力主義、あるいは成果主義とも訳されますが、努力と才能で、人は誰でも成功できるという考え方、システムです。

私が会社に就職したころ、多くの会社は、年功序列制度、あまり能力などは関係なく、基本的に年齢の高い人が高いポストに就き、給料も高いというシステムでした。それが能力主義、つまり能力に応じて出世もし、給料も高くなるというシステムに代わりつつある時代にあって、私は「能力主義」は当然あるべき姿で、自分も能力を発揮して昇っていこうと思っていました。

ハーバード大学の政治哲学者のマイケル・サンデル教授という人がいますが、彼はこのメリトクラシーという考え方に潜む問題について警鐘を鳴らします。たとえば、必死に努力して有名大学に入って、出世なり、起業なりした成功者が、その成功を自分の力のみで勝ちとったと思って傲慢になったり、収入が高ければ高いほど社会に貢献していていると勘違いし、給与の低い人たちを能力がない、努力が足りないと見下したりしてしまう。そのような考えや態度が、格差社会を拡大させたり、社会の不満を助長したりすることになる。コロナ禍の中で、エッセンシャルワーカーということばが注目されました。医療従事者、介護や保育に関わる人、あるいは清掃業、ごみの収集など公共サービスの従事者、スーパーの店員など、いないと社会が回らない仕事をする人たちです。しかしこれらの仕事は、必ずしも給与の高い仕事ではない。つまり、社会への貢献度と報酬というのは必ずしも比例するものとはなっていないという現実がある。しかし、一つひとつの仕事には意味があり、報酬の高さ低さに関係なく尊厳が与えられるべきで、社会を構成するどんな仕事の人でも敬意と感謝を持って接する必要がある、と言います。私はこの主張に大きくうなずかされる者ですが、この報酬に関係なく、私たちが貢献し合い、必要とし合うことに、人生を豊かにしていく一つの鍵があると思います。

私は、自分にしてほしいことを他の人にもそのようにしなさい、と聖書にあるように、私たち人間は、そもそも愛し合い、助け合い、貢献し合いながら生きていくように造られていると、信じています。そして周りの人に必要とされることが私たちの深い喜びとなり、幸せの一つの大きな要因になると信じています。どうぞ、一番に目を注ぐのは、目に見えるものではなく、見えない大切なものに目を注ぐ生き方をしてほしいと願います。

 皆さんのこれからの人生の上に神様の守りと導きがあることを願い、最後に、アイリッシュ・ブレッシングという祈りを捧げます。

May the road ever rise to meet you.
May the wind be at your back.
May the sun shine warmly on your face.
May the rain fall softly on your fields.
And until we meet again,
May God hold you firmly in the palm of his hand and give you Peace.

あなたの前に歩むべき道が常に開かれるように。
風があなたの背中をやさしく押すように。
太陽があなたの顔を暖かく照らすように。
雨があなたの田畑をしとしとと潤すように。
そしてまた会う日まで、
願わくは、慈しみの神が、あなたをしっかりとその御手のうちに置き給い
あなたに平安を賜るように。God bless you all.

皆さんのこれからの人生の上に、神様の祝福が豊かにあるようお祈りし、式辞といたします。

本日はご卒業、おめでとうございます。

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